桃夭-SWEET PEACH
 

桃夭(とうよう)−SWEET PEACH


「……大きくなった、か……」
 何が、と聞き返したくても、しゃべるのもままならない。口から出るのは切れ切れのあえぎだけだ。背を向けるかたちで男に抱え込まれ、足を開かされている状態では。しかも後ろから回された手が胸をこねるようにもみしだいているのだから。
 色づく頂を長い指先で転がされると、男をくわえこんでいる体の奥が意識しないまま、きゅっと締まった。強く突かれるごとに下腹部からせり上がってくる痺れるほどの快感に、何もかもたまらなくなってしまう。
「ん……っ、とも……もりっ」
 鼻にかかった声は甘えるように響いたが、もうそんな風にしか出せないのだからしかたない。うめきにも似た低い声が背後から聞こえた。
「くっ……きついな……」
「あっ、わたし……」
 意識が飛びそうな寸前で訴えると、背筋をぞくぞくさせる低く熱いささやきが耳元に吹き込まれた。
「……ああ、俺もだ。……行くぜ……?」
 ひときわ大きく動かれ、体の奥に熱いものが注がれるのを感じたと同時に、望美も目の前が白くなるような絶頂を覚えた。


 知盛のように他人に無関心な男は、事が終わったあとはさっさとそばを離れてしまうのではないかと思っていたが、予想に反していつも情の細やかなところを見せてくれる。
 欲望の高まりが去ったあとに落としてくれるやさしい口づけは、彼の満足と望美へのいたわりを感じるし、髪を撫でてくれたり、離れがたいように肌に触れたりしているのも、単に彼が体の繋がりだけを求めているのではないということの証のように思えて望美はうれしかった。ただそれは、またすぐに彼女に挑んでくることの前哨であることも多かったから、そうそう安心だけしているわけにもいかなかったのだが。
 けれど今も知盛に寄り添って横たわり、彼の腕が彼女をしっかり抱くように回されているのは、とても幸せな気分だ。
 戦いの中で鍛えられた筋肉は堅くたくましく、だが同時にしなやかで美しい。肌のそこかしこには痛々しい戦さ傷があるが、それすらも彼の精悍さを引き立てていると思う。知盛の香りに包まれて寄り添っていると、自分は女に生まれたのだとしみじみ感じられて、それが不思議なほど満ち足りた気分をもたらしてくれる……。
 ようやく息がおさまってきたところで、望美はさっきの知盛の言葉の意味を確かめたいと思った。あれって……。
 でもさすがにまともに聞くのは恥ずかしい気がする。横の知盛にそっとうかがうように尋ねた。
「あのね、知盛……、さっきのこと……」
「何だ?」
「その、大きくなったって……?」
 ためらいがちの問いに、知盛は「ああ、あれか」と低く笑った。
「率直な感想を言っただけだ。前より大きくなった。おまえの胸は」
 あけすけな言い方に望美は赤くなる。そういえば、ここのところ前より下着がきつくなってきた気がするかも、しれないけど? 
「そ、そうかな。大きくなったって……」
 自分の胸は標準サイズ……いや、少し小さい方かもしれない。少なくとも巨乳からはほど遠いのは確か。男の人は大きい胸が好きっていうし……。 私じゃもしかして物足りない? じゃあ、大きくなったっていうのはいいことなの? うーん? 
「もしかして知盛、大きい方が……好き?」 
 くるくると変わる望美の表情に、知盛はおかしそうに声をたてた。彼女が何を考えているのか、お見通しといった風情である。望美のあごに手をかけるとその顔をのぞきこみ、望美はどきどきしながら夕闇色の視線を受け止めた。
「相変わらず退屈しない女だ。言っておくが、別に大きければいいってわけじゃないぜ。俺はこの、おまえの胸が気に入ってるんだ」
 言いながら望美のふっくらした胸の片方の先端を指先でつついた。突然の甘い刺激に思わず望美は声を出す。知盛はふくらみの裾野にそのまま軽く指先をすべらせ、その動きに誘い出されるように声が上がった。さっき鎮まったはずの熱が、あっけないほどに再び燃え上がり望美の心と身体を支配していく。
「あ……あんっ……」
 快感の波に急速にさらわれていく望美の白い肌を愛撫しながら、知盛は淡々と続けた。
「やわらかいのに弾むような張りがある。こんもりと美しい形をしている。俺の手にしっくりとおさまって、吸いついてくるような感触もすばらしい。熟れはじめた桃のようで、ずっと愛でていたくなる……。何よりいいのは、とても……敏感なことだ」
「あ……っ」
 頂そのものではなく、その周りをじらすように撫でられ、望美はやるせなさにあえいだ。体の奥からまた蜜があふれ出してくるのを感じる。
「こんなふうに触れると、おまえはいつもそんな飢えたような顔をする。いい顔だ……。言えよ。どうしてほしい?」
「あ、も、もっと……」
「もっと……?」
「ん……、いじわるしないでよ……っ」
 小さな声で訴えながら、望美はすでに涙を浮かべている。これまで何度も抱かれてずいぶんと体も馴染んできたが、欲求をあからさまに口にするのはまだ慣れていない。欲望と羞恥の間で悶える望美を見下ろし、知盛は含み笑いをもらした。
「ああ、その顔もそそられるな……。もっと触って欲しいのか?」
 心の中まで見透かすような知盛の視線に、耐え切れず目をつぶり望美はうなずく。
「正直な女は好きだぜ……」
 知盛は唇を望美の胸に寄せた。唇を軽く当てながら舌先でも触れ、ゆっくりと味わいはじめる。望美は知盛の髪に指を差し入れ、もっと触れてほしいと体で訴えるように背をそらせた。
「本当にいい女だ、おまえは。淫らで貪欲で、欲望に忠実で……」
 望美の肌の上でつぶやく。
「……さあ、もっと啼いてみろよ。素直に啼けば、欲しいものはいくらでも手に入ると教えてきただろう……?」
「あ……ああっ」
 執拗なまでの愛撫に、感じるままに嬌声を上げる。もう知盛のくれる快感を追うことしか考えられない……。朦朧としかけた望美の耳にひそやかな笑い声が聞こえてきた。
「まだまだ育つと思うぜ、おまえの胸は。大きくなったのも、これまで俺がずいぶんと可愛がってきたからじゃないか? それなら、これからもっと……」
「やっ……ばかっ」
 望美の力ない反抗の言葉も知盛の唇に熱くふさがれてしまい……あとはやるせない吐息と甘い悲鳴だけが部屋に満ちていくのだった。




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